事実は小説よりも奇なり!夫だけでなく、お金まで奪うのか!?不倫された妻の悲痛な叫び

2016年11月24日

不倫を題材としたドロドロしたテレビドラマはいつの時代も人気があります。「昼顔」、「不機嫌な果実」、「失楽園」。あなたも1度くらいは見たことがあるのではないでしょうか?フィクションだから楽しめる!という意見はもっともですが、現実世界でもドロドロとした“不倫騒動”があります。たとえば次のケース。

【実録】68歳、最期の恋

カオル(20代)は夜の街で働くホステス。ある年の春、彼女は大学教授である雪蔵(60代)と知り合った。雪蔵には結婚して20年になる妻しずえ(職業:高校教諭)がいたが、2人はこの頃すでに別居しており、雪蔵はカオルに惹かれていった。カオルもまた雪蔵に恋をして、知り合ってから約3年後には、2人は同棲するようになっていた。
雪蔵は自身の書籍の出版パーティーにカオルを連れていくなど、2人は半ば公然と交際を続けていた。そのため、当然しずえも雪蔵とカオルの仲を知っていた。このような交際関係の中で、雪蔵は自分が亡くなってもカオルが暮らしに困ることがないようにと「全遺産の3分の1をカオルに遺贈する」という趣旨の遺言を作成した。雪蔵とカオルの間では別れ話が持ち出されたこともあったが、結局雪蔵が亡くなるまで交際は続き、このような遺言が作成されたからといってその関係性に何か変化があったわけではない。そして同棲を開始してから約5年後、雪蔵は68歳で亡くなった。
※ 遺贈…自分の死後に財産を贈与することであり、包括遺贈と特定遺贈がある。

登場人物の名前は仮名ですが、これは実際に起きたケースです(最判昭61・11・20)。「あなたに渡すお金なんてない!」と啖呵を切った妻しずえと「雪蔵さんと付き合っていたのはこの私!」と譲らなかったカオル。あなたはホステスで不倫相手のカオルと約20年間夫を支えた妻しずえのどちらを応援しますか?雪蔵の晩年の恋がいったいどんな結末を迎えたのか、というと、最高裁は、3分の1を不倫相手に渡すという雪蔵の意思を尊重する趣旨の判断を下しました。

不倫相手の勝利!?この世の“情け”はどこへ……

妻ではなく不倫相手の言い分が認められた、ということで、驚かれた方がいるかもしれません。夫婦の財産は妻の陰の支えがあって築き上げられたものです。夫婦の関係を壊した人に1円だって渡したくないという感情を抱いて当然でしょう。また、不倫相手に対する遺贈が容易に認められてしまうと「お金をあげるから一緒にいてほしい」という“約束”がまかり通ってしまうことにもなりかねません。このような誰しもが抱く不安はもちろん裁判所も考慮しています。以下、この事件の控訴審裁判例を引用します(東京高判昭61・2・27)。
「その遺贈が不倫な関係の継続を強要することを目的としてなされたときは、右遺言が公序良俗に反し無効であると解すべきことは当然であるが、不倫な関係を継続するためではなく、他方の生活を保全するために遺贈がなされたにとどまるときは、財産供与の範囲が著しく不相当でない限り、このような遺贈までも公序良俗違反のゆえに無効であるということはできない」
ポイントとなるのは、「不倫関係の継続を目的とした遺贈は無効」ということです。自分の死後お金が渡るようにするからその見返りとして生前一緒にいてほしい、という約束は基本的に聞き入れてもらえないのです。今回のケースで遺贈が認められたのは、カオルの生活を死後も支えたいという雪蔵の“やさしさ”があったからなんですね。

結婚相手vs.不倫相手火花飛び散る闘いの行方は……?

不倫相手への遺贈が有効なものかを判断するにあたって、裁判所は、遺言者夫婦の関係、不倫の相手方との関係、遺贈の時期、遺贈の額、相続人への影響などを考慮しているとされています。つまり、不倫相手が夫婦関係を破たんさせた場合やその遺贈によって妻や夫が経済的に困窮してしまうという場合には遺贈は有効と認められにくい傾向にあります(しずえが高校教諭であることから、ある程度稼げていたことが推測できますよね)。今回のケースにおいて妻はつらい思いをしましたが、一般的にみれば、不倫相手よりも結婚相手の方がより厚く保護されており、情け容赦のない判断が下されることは少ないといえるでしょう。

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