人間ドックでがん死亡率は下がるのか?

2016年11月24日

公益社団法人『日本人間ドック学会』( http://www.ningen-dock.jp/wp/wp-content/uploads/2013/09/e1ab5e9d9ec665e4918e3619911dea65.pdf)によると、公共の健康診断のほかに人間ドックを利用する人が増えています。その人間ドックで重視されるのは、がんと動脈硬化の早期発見です。なぜなら、厚生労働省の平成27年(2015)人口動態統計の年間推計(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei15/dl/2015suikei.pdf)によると2014年の日本人の死因の1位はがん、2位は心疾患、3位は肺炎、4位は脳血管疾患で全体の死亡者数の半分以上を占め、これらの病気を予防するには、がんと動脈硬化を早期発見し、それらに対処することが大切とされているためです。2016年5月に世界保健機関(WHO)が発表した世界保健統計では日本の男女平均寿命83.7歳が世界一となりましたが、欧米の先進国では年々がんによる死亡者が減少しているにも関わらず、日本ではがんによる死亡者は増加傾向にあります。 いったい、人間ドックはがんの死亡率を下げるために有効なのでしょうか?

人間ドックを受けるメリットとは?

人間ドックや特定のがん検診が、がんの早期発見に役立っていると考えている医者は多くいます。公益財団法人「日本対がん協会」によると、がんの中でも肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんは、早期発見と適切な処置によって死亡率が低下することが科学的に証明されてます。人間ドックでは、肺がんのために胸部X線検査、胃がんのために上部消化管のX線または内視鏡、大腸がんのために便潜血、乳がんのためにマンモグラフィー、子宮頸がんのために細胞診などが基本検査やオプション検査として行われています。その結果、再検査や要精密検査になった場合には、さらに詳しい検査が行われ、がんなどが見つかった場合には治療が行われ、その治療の結果がんが治癒するケースもあります。また、人間ドックを定期的に受けている人からがんが見つかりやすいという傾向もあり、がんが見つかった人の7割が人間ドックを経年受診しているという報告もあります。そして、人間ドックで実際にがんなどの病気が見つからなくても、体の状態を定期に的に検査することで、病気になる兆候を見つけ、生活習慣の改善を指導される場合もあり、健康意識の向上と病気の予防に繋がっているともいえます。

人間ドックを受けるデメリットもある!?

実は、人間ドックというのは日本独自のシステムで、諸外国には健康診断はあっても人間ドックのように精密な検査を行う習慣はありません。これは、一説によると、人間ドックを行うことががんなどの病気による死亡率を下げることに直結しないからだと言われています。それどころか、精密検査を行うために使われる、X線やCT検査で放射線を浴びることが、がんの発生を高めているとさえ言われており、2004年、医学雑誌『ランセット』に掲載された、イギリスのオックスフォード大学のベリングトン博士らの研究論文によると、日本のがんの3.2〜4.4%は医療用X線が原因とされ、他の国々の0.8〜1.5%に比べ高い数値を示しているという結果になりました。『週間通販生活』で行った『レントゲン、CT検査、医療被ばくのリスク』の著者である崎山比早子氏のインタビュー(https://www.cataloghouse.co.jp/yomimono/140805/)によると、日本のCT普及率はほかの先進諸国を圧倒しており、医療の発達からX線による検査なども頻繁に行われていると言えるでしょう。また、がんの種類によっては、“早期発見=死亡率の低下”に繋がらない場合もあります。例えば、前立腺がんの場合、高齢になるほど発症しやすいという特徴があり、同時に高齢になるほど進行が遅いという特徴があります。日経BPのがんナビ( http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/report/200701/100046.html)によると80歳代の男性では40%が前立腺がんを発症していますが、その約半数は別の理由によって死亡しています。このことから、仮に高齢者から早期の前立腺がんが見つかった場合、積極的な治療を施すことが体に負担をかけ、寿命を縮めているのではないかという考え方もあります。

まとめ

人間ドックの受診率が増加しているのに対し、がんによる死亡率も増加し続けていることから、統計的には人間ドックを受けることが、がんによる死亡率の低下に直結しているとは言いにくいでしょう。一方で、個人個人でみれば、実際に人間ドックで早期のがんが発見され、治療を行うことによってがんを克服できる場合もあり、その場合は、人間ドックを受けることでがんによる死亡を免れたと言えます。しかし、医療用X線によって放射線を浴びることは、がんのリスクを高める要因となりうるため、毎年むやみに精密なCTなどを取る必要はなく、必要に応じて最小限の範囲で行う必要があるとも言えます。結局のところ、人間ドックを受けるべきか、受けないべきかということは、個人の判断に任されることとなりますが、がんに限らずさまざまな病気を遠ざけるには、日常生活をいかに健康的に過ごすかということが大きな要因となります。人間ドックをいつ受けようかと考えると同時に、適度な運動、野菜や果物をたくさん摂る食生活を心掛け、健康的な毎日を過ごすことが大切なのかもしれませんね。

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